薬草の旅~森野旧薬園をたずねて その4

くずもちにくずきり、くず湯に葛根湯…和菓子や漢方薬になじみ深い葛。

葛根には解熱作用や身体を潤す作用があり、風邪に用いるほか、滋養にもいい生薬です。マメ科でイソフラボンも豊富。

旺盛な繁殖力であちこちにはびこっているのを目にするため、くず粉はみな100%、葛の根を使って作られていると思っている方も多いのではないでしょうか。

でも、最近は本葛じたいが希少で生産量も少なく高価なため、葛粉といってもじゃがいもやさつまいも、とうもろこしのでんぷん(コーンスターチ)を混入したものが増えています。本葛が50%~70%入っていれば、他のでんぷんを混ぜても「本葛」の表記だけでいいのだとか。

ちなみに片栗粉も、昔はカタクリの根からとったでんぷんを使っていましたが、今はほぼ、じゃがいものでんぷんです。

さらに、本葛の根が澱粉を蓄えてイモ状になるにはかなりの年数(約10年と推測されています)を要するため栽培も困難。原生林で太い野性の葛を探し当て掘るという方法が昔からとられてきましたが、それもまた大変な労力を要します。私も山の畑を開墾するとき、葛のつるをかなり伐採しましたが、太くても地上部の直径が2cmどまり。地上部のつるの直径が4~5cmはないと、でんぷんがとれるほど根が生長していないそうです。

そういうわけで国内では天然の葛、採集にあたる人ともに減少し、中国産の割合が増加。中国では畑での栽培も盛んで天然ものではないことと、ポストハーベストも問題になっています。

森野旧薬園の本業である葛粉の製造では、今も深山に分け入り、昔ながらの手法で葛根を採掘しているそうです。真冬に地下水だけを使用し、攪拌、自然沈殿、排水、加水を2~3週間繰り返して白いでんぷんを抽出し、乾燥させます。精製から乾燥の終了まで3ヶ月と、本当に手間ひまのかかる作業です。

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吉野産の本葛粉と、コーヒーやブランデー、あずき、抹茶など、いろんな味の葛湯。お湯で溶いて冷やすだけで固まり、葛ゼリーになります。

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ゆず味をゼリーにして、はちみつで煮たきんかんの輪切りをのせてみました。つるんとしたのどごしで、身体の熱がひいていきます。

葛粉と葛湯は、森野吉野葛本舗の通信販売でも購入できます。

お店にはお土産品の絵葉書セットや、葛と四季の花々をあしらったクリアファイルも。

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松山本草に描かれた生薬のうち、当帰、川芎、芍薬、地黄などは今も大和で栽培されていて、近くの道の駅には大和当帰茶や当帰葛湯などがたくさん並んでいました。

国産の漢方薬でも原料の90%を輸入に頼っていることを考えると、薬草栽培の国内シェアはほんのひとにぎり。農薬の使用や機械化が適さないことも一因でしょう。でも、庭や畑の一角で自家用に栽培している人は、案外多いかもしれません。

昆虫や野鳥など生物多様性に富み、里山の風景そのままの理想郷、森野旧薬園。ひとつの奇跡であるこの薬草園を支えているのが、これまた貴重な吉野本葛…。現代の風潮から取り残されているようでいて、実は時代の最先端を駆けている。そんな気がします。

 

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